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PBW「サイキックハーツ」キャラクター【d03349/d03598/d23600/d33560】のプレイング置き場。
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♪ 雨水色 Cocco

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 梅雨の晴れ間、と言っても既に日は傾いていた。
そういえば、彼に付けた苗字によく似合う天気とも言える。
寮母の美晴さんの後について大広間を抜け、階段をのぼる。途中出くわす生徒達に軽く挨拶するも、大抵返事は返ってこない。それでも根は良い奴らと知っているので、特に怒りも湧かない。
「暴雨くん、お客様ですよ」
美晴さんがドアをノックして部屋の主に声をかけると、静かにドアが開く。

 自分の部屋に居ても、相変わらずネックウォーマーは外せないらしい。
「元気か」
 こくりと頷いているが、見た目は相変わらず元気という雰囲気は感じられない。
まあこいつはそれが普通だし、体調は問題ないという意味の頷きだろう。
「そーかそーか、上がるぞー」
 本人の了解も得ずにずかずかと部屋へ上がり込むが、それもいつものことだ。
チラッと見た玄関脇には、ビニール傘しかなかった傘立てに、青い傘が増えていた。自分で購入したのか、貰い物か。
「それじゃあ私は下に居ますね」
「あーどうも」
「いいえ。暴雨くん、お夕飯終わったら、あとで持ち物チェック手伝うわね」
美晴さんにこくりと頷いて、彼は玄関のドアを閉めた。

 定期的に見に来る彼の部屋には、少しずつ物が増えてきているのが分かる。
壁一面の作り付けの棚に几帳面に並べているものは、傍から見ればガラクタの方が多いのかもしれないが。
反対側の窓辺には、スノードームや青いビーズの様な物が入った瓶が置かれている。
ただの学生寮ではなく灼滅者用の寮だ、各個人の個性を伸ばす為にも必要な収納スペースだけは確保している。
ちょうど彼は武器の手入れをしていたらしく、ぽっかりと空いた床へと日本刀を戻している。

 座布団に座って彼の部屋と行動を眺めていると、台所の無い部屋に小さく置かれた冷蔵庫から、いそいそとお茶の入ったペットボトルを出してきた。
「すぐ帰るから茶は要らねぇぞー」
此方の呼びかけに頷いたのち、首を傾げながら傍に鎮座する丸テーブルを指差す。
飴玉の詰まった硝子瓶に可愛らしい紙袋、…どちらかといえば女子っぽいお菓子が並んでいる。
「……食べる?」
「いや、要らねえ。つうか用事終えたらすぐ帰るから。まぁ座れ」
四つ足の四角いテーブルを間に、彼は俺と向き合って静かに正座した。

「そういやさっきの持ち物チェックってなんだ、修学旅行か」
ん、と小さく声を出して頷いたのち、小首を傾げ問いかけてきた。
「…土産は、何がいいだろう」
「あー要らねえ要らねえ。土産話でいい」
この無表情には最初苦労したが、最近はなんとなく感覚をつかみ始めた。
旅行を楽しみにしているのだろう、学生生活はきちんと満喫しているようで少し安心した。俺が保護者ということになっている生徒全員が、充実した生活を送れる訳じゃないからだ。
…そういう、めんどくさくて胃が痛くなる仕事だ。

 充実した学生生活ということで、話は本題に入る。
「つーわけでな、ほれ。渡せ」
正面の相手に向かって片手を伸ばすが、彼は首を横に傾げる。いまだに何かを察するのは難しいらしい。
「テストだよ、テスト。見せろ」
……一瞬ビクつく姿は、彼の考える人間らしさに近付いていると思うが。
若干普段よりもおどおどしているように見える動作で立ち上がると、勉強机に立てかけてあるラックから紙が数枚入ったファイルを取り出した。

「……」
まぁ、予想していた通りの結果だった。とはいえ、高1の頃より断然マシだ。
マシと言っても、小学校から中学校までの復習補修の授業はこれからも受けてもらうが。
「…日本史は、今までで最高点だな」
身長は大して変わらないが、光のないタレ目が此方を窺うようにじっと見つめている姿は、なんの動物だ。
「英語も…筆記が前より上がってんだな、良し」
「おぉ…」
「だがリスニングが下がってるから来年の地獄合宿も勉強合宿だ」
普段半分ほど閉じた目が丸くなり、肩がビクッと動く姿は見ていて笑える。
「冗談だよ、良くやった良くやった」
本当は冗談ではないのだが今は安心させてやろう、小さな嫌がらせだ。
勉学は今のこいつに必要な義務だ、きちんと遂行してもらう。…今後のこいつの人生に、役に立つかは置いといて、多少の糧にはなるはずだから。

「それとほい、これな。二日遅れのたんじょーびおめでとさん」
ファイルを返すと同時に、一応プレゼントと称した数冊の絵本を渡す。
「……カラスの」
妙にこの絵本を気に入って読んでいたと美晴さんから聞いて、面倒だから最新作を全部。一応保護者という体なのだから、子ども達の誕生日には何か贈ってやるのが正しいだろう。
そんなことする奴は少ないぞ、と同僚には鼻で笑われたが。
「…どうも」
丁寧にお辞儀をされれば、特に悪い気もしない。

 ふと、相手は小首を傾げ、俺に問いかけた。
「……誕生日は、こんなに沢山、お祝いとして物を貰う日なのか」
「人それぞれだろ。どうした、俺以外からもプレゼント貰ったのか」
こくりと、同意を意味する頷きと共に、丸テーブルの菓子や窓辺の青の瓶を指差す。
立ちあがって飾り棚に向かうと、鍵や携帯電話を入れた木箱から万華鏡のような物を取り出し此方に持ってくると、もう片方の手でアンティーク風のランプを指差した。
どれも彼のいう、『心に残ったもの』に該当すると思われる。というか、センスの良い友達ばかりが出来たもんだ。
「…あとは、防御力の高い冬服と、さっきの日本刀。玄関の、傘も」
「おー良かったな、お前日本刀が性に合ってるみたいだし、防御力は大事だな」
あまり自分から話をしようとしない彼が、ぽつぽつと語る言葉に耳を傾ける。
多分、これらの送り主達も、そうなのだろう。

 さっきよりも、夜が間近に迫っているのを感じた。
「んじゃ、帰るわ。思ってたより長居して悪かったな」
「…問題ない。もうすぐ、夕食の時刻になる。…その時刻には、間に合う」
此処に住む食べ盛り全員の食事を作る仕事はキツいだろうにと、あの夫婦の顔を思い出す。
相変わらずの無表情は、此方が軽く手を振ると、玄関前でほんの小さく手を振った。
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