丁寧に片付けられ、壁一面にずらりと並ぶ品々は、今日もガラス越しに光を反射している。
窓から見える天気は案の定、さめざめとした小雨が降っていた。
「ほい、誕生日おめでとさん」
「…ありがとう」
部屋の主に、一週間遅れの小さなお祝いを渡してやる。無駄のない動作で頭を下げる姿は、大学生になっても変わらない様だ。
誕生日と言っても、正確な生年月日は分からない。ただ出会った当初、年はいくつかと尋ねた際に返ってきた返事に合わせ、此方が勝手に設定しただけのことだ。
「んじゃ恒例の奴」
「……了解」
要するにテスト結果だ。こいつの頭の悪さは俺が担当する中でも一、二を争う。
「お前毎回毎回怯えた顔してんじゃねえよ、とって食うわけでなし」
「……今年も、知らない間に地獄合宿の特別参加になっていた」
「ハッハッハ」
微妙に恨めしそうなオーラを漂わせているのは気のせいだろう。勉強が出来る出来ないだけで人生は決まらない。特に彼等については。
ゆっくり立ち上がり勉強机へと向かうと、結果をまとめたファイルと共に、何故か引き出しから小包を取り出し戻ってくれば、目の前にそれを差し出してきた。
「なんだこれ」
「…父の日の、プレゼント」
さっきも小中学生の何人からかは貰ったが、意外な出来事に驚かされる。
「俺じゃなくて、どっちかっつーと雪善さんに渡すもんじゃないのか」
普段から彼等の世話をしている寮の管理人夫婦にこそ、このプレゼントは渡されるべきだろう。
「其方には…いつも、別の物を、渡している」
「へえ」
四年近くこの生活をしていて初耳だ。つまり、どうして今更俺にまで渡そうと思ったかが知りたくなった。そんな心情を察したのか、ぽつぽつと話し出す。
「母の日も、父の日も…実の親が居ないのであれば…育ての親に、あげれば良いと思った。親には…保護者という意味も、含まれる」
そっと指をさされ、思わず笑う。
「お前の親の範疇に、俺が居てもいいのか?」
「…多分、皆、そう思っている」
笑ったのは誤魔化す為だ、年端も行かないガキに訳の分からないモノと戦わせている罪悪感位はある。
しかし罪悪感と共に、こそばゆい感覚に頭を掻いたのも事実だ。
「ありがとな」
机越しの正面に座る相手へ腕を伸ばし、わしわしと頭を撫でる。少し強めだったのか、青い髪の頭がぐらりと揺れた。
「ってなんだこのディスカッションの点数」
「んん…議論するのは、教室での相談よりも…むずかしい」
「論文」
「…作文とは違う、ということは…覚えた」
来年も、問答無用で勉強72時間コースだ。
「…そういえば、報告があった」
「んー?なんだ」
「彼女ができた」
………ん?
「悪ィ、もっかい聞いていいか。なんだって?」
「彼女が、できた」
こうやって驚かされる日が常々あるなら、親というのも、悪くない。
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