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PBW「サイキックハーツ」キャラクター【d03349/d03598/d23600/d33560】のプレイング置き場。
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♪ 黄昏のラプソディー ねごと

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「せんせ、次のカウンセリング、オレ予定あるから休みでいい?」
「あ、そうなの?りょーかい」

 通い始めて一年半、二年近くだっけ。その間にも何度か急に同じ事を言ったり、電話で予約を取り止めているから、あっさりと了承される。いや、精神科ってそんなもんなのかもしんないけど、その中でもオレはそこそこめんどくさい患者だろうなとは自覚している。

「今回は何処に行くの?」
「熊本」

 理由はシンプルだ、唐突に決まる家族と、或いは友達との遠出旅行。まぁ本当はそんなもんじゃなく、デコポン頭のピエロ怪人をぶちのめしにいくんだけど、彼女はあくまで『一般人』という奴なので、そういう風にしか話せない。

「熊本ねぇ…それはまた遠いっていうか、次って月曜よね?春休み最後の思い出?」
「まぁそんな感じで。友達と一緒に」
「ちゃんと勉強してる?」
「ははは…まぁあの、それなりに……」

 カレンダーと予約表を見比べながら喋る彼女から、目をそらして笑っておく。
こないだの数学のテストはこの超能力で燃やしたいところだが致し方ない。大人しく母さんに献上した、また小遣いが下がる。

 そんな絶望を抱えている中、ふと視線がかち合って、にこりとした笑顔を向けられる。

「冬よりはだいぶ、落ち着いたって顔してる」

 そうですか?と聞くまでもなく、自分でもよく分かってる。
散々引きこもり続けて、食事中も何か食べては吐き出すのを我慢する有り様だった。
ただでさえ浅い眠りは更に悪化し、夜明け前にぼんやりネットサーフィンしながら、スナック菓子をバリバリ食って過ごすことが多かった。

 クリスマス以降のたった1か月、されど客観的に見てあんまりなこの惨状は、なるべく両親の前では隠しているつもりだった。けどそこはオレの考えがくそ甘くて、二人はちゃんとオレの親だった。

 夜中泣きながら父さんに訴える母さんと、それを慰める父さんは、『一般人』とは言え、学園の『関係者』だ。冬休み中も教室に毎日通う癖にクリニックには行かず、泣きついた母さんに頼まれ、目の前の先生が一度家にまで出向いてくれたほどで。

 それならオレは、両親にだけは理由を言っても良かったのだ。

「きっと学園で何かあったの、つらい事があったのよ」
「あの子が言いたくないなら、言ってくれるまで待つしかないよ。僕等のこどもは、そういう子達だっただろ」
「過去形にしないで、あの子は、漣香の隣に居るもの」
「そうだね。彼女は僕等の代わりに、弟を守ってくれているね」

 いつもなら「あの女は姉ちゃんなんかじゃない」とかキレてるところだが、一人目を亡くした挙げ句に、二人目がこんなんじゃあそうもなるよな、と、当時はどこか他人事の様に感じていて、黙って自分の部屋に戻った。
 それくらい、他人にも、自分自身にも気が回らなかった。

「まぁ、人間関係?それが元に戻ったって感じ」
「誰かと仲直りしたってこと?」

 仲直り。それはどうなんだろーか。あの、金魚鉢の中でひとりぼっちで泳いでるみたいな女の子と、オレは仲良くなれたのか。つうかあの子の記憶に、オレは残っているのか。
どう説明していいか暫く迷って…ああ、そうか、コレだ。

「いつも良くしてくれる先輩が暫く家出してて、戻ってきたから。友達やら皆で頼んだら戻って来てくれた」
「そっか、なるほどね」

 やっと話してくれたわね、と笑みは深くなる。所謂心のケアをする仕事の人に、もっぱら世間話しか話さないオレは本当にめんどくさい患者だろう。それでもこのゲームが面白かった、みたいな話にもノッてくれるから、頭が上がらない。

「じゃあ、レン君はその先輩のことよっぽどすきなんだ?」
「えーなんか超誤解されそうなんですけどその表現。…まぁ、うん。そうだね、パシられるけど」

 そうでなきゃ、飯が喉を通らないを実体験する訳がなかった。人の不幸で飯は美味くならない、ただ不味いだけだ。それが自分のでも、他人のでも。

「熊本、楽しんできてね」
「うん、クマモン見てくる」

 ボコりにいく理由は、別に強くなりたいからじゃない。化け物退治に積極的にもなってない。もしもの為だ、いつかまた起こり得る、もしもの為に。
それが起こってしまうのをただ恐いと怯え続けて、弱いままでは居られないから。
 彼女だけじゃない、他の誰かが居なくなった時も、笑って探しに行けるように準備しておきたいだけ。

 「泣かないで」とお願いされたから、「笑っていて」と約束されたから、そうしなくちゃいけないと、オレ自身が誓ったのだ。
その約束はなんというか、いつも姉ちゃんと一緒だったあの頃のボクとの誓いにもダブる気がした。

 これが正しい事なのかは、誰かが勝手に決めればいい。正しくない事くらい分かってるオレは、視ないフリをするから。
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