学園の関係者や担任が、何度かやってきた程度の私の部屋は、我ながらとても殺風景で、ほんの一瞬の戸惑いが感じられる。
スーパーで買った、マグカップに入れるタイプの小さなカップ麺を食べながら、録画しておいたドラマを見る。そのあとで薬を飲まないと。これで夕飯はおしまい、と言うと、またクラブで心配されてしまいそうだなと少し思った。
薄いテレビの向こう側に居る彼は、あと二十年経ったら素敵な人になるんだろう。それまでどうかヘマして活動自粛なんてことはやめてほしい。
ふと目についたのは、連絡先の少ない、機能もあまりよく分からない慣れないスマートフォン。一旦テレビの録画再生を中断して確認すれば、メールの宛先は学園のメールマガジンだった。テストのお知らせだろうか。
最近始めた通話アプリも、なかなか会話に追いつけない。それでも、あの頃より自分なりに頑張ってるつもりでいる。そうしなければ、そうしなければ。
…なんとなく思い立って、ある番号に掛けてみた。勿論繋がらないと分かりきった上で、だけど自然と、指は正しくボタンを打ち込んだ事に自分自身驚く。聞き慣れない呼び出し音が鳴って、心臓が高鳴る。
「はい、もしもし」
あの、と呟くだけの声すら掠れる。この程度で、電話機を持つ手はふるえた。
「あの、すみません。そちら、莫原さんのお宅でしょうか」
「いいえ、うちは瀬戸内といいますよ。間違い電話じゃないでしょうか」
全く知らない、優しそうな口調のおばさんの声が、耳の奥でがんがん鳴り響く。
一緒にじゃらりとチェーンの音がするのは、今つけているシルバーのイヤリング。
そうですか、と、最後まで言い切れたかわからない。か細く間違い電話の謝罪をし、電話を切る。
暫く経って落ち着いてくると、訳もなく笑いがこみあげる。繋がらないどころか、全然違う家の番号になっていたのだから。
「ふふ」
寒さには慣れていても暑さは逆。蒸し暑さに耐えかねて、窓を開ける。涼しい夜風は心地よかった。
さっきまでの私は、一体何を期待していたんだろう。一度決めたことを、どうして今更。
ああ、くだらない、どうしようもない人生だ。
もう一度、少ない電話帳を眺める。この中にあなたの番号はない。だってあの頃はいつも一緒で、電話なんて要らなかったから。耳に触れると、さっきの電話の相手の声は、もう思い出せなくなっていた。きっと向こうもそうだろう。
だけどあなたは違う、そんな訳がない。私だって覚えている、この耳が、目が、口が、鼻が、手足が、脳が、全部。
気分が悪くなる前に、リモコンの再生ボタンを押して、無理やり夕食の続きを始める。考えるのはやめて、もう一度ストーリーの前半を頭から引きずり出して、続きを叩き込む。
ー今日もまた、あなたを、こいねがいー
スーパーで買った、マグカップに入れるタイプの小さなカップ麺を食べながら、録画しておいたドラマを見る。そのあとで薬を飲まないと。これで夕飯はおしまい、と言うと、またクラブで心配されてしまいそうだなと少し思った。
薄いテレビの向こう側に居る彼は、あと二十年経ったら素敵な人になるんだろう。それまでどうかヘマして活動自粛なんてことはやめてほしい。
ふと目についたのは、連絡先の少ない、機能もあまりよく分からない慣れないスマートフォン。一旦テレビの録画再生を中断して確認すれば、メールの宛先は学園のメールマガジンだった。テストのお知らせだろうか。
最近始めた通話アプリも、なかなか会話に追いつけない。それでも、あの頃より自分なりに頑張ってるつもりでいる。そうしなければ、そうしなければ。
…なんとなく思い立って、ある番号に掛けてみた。勿論繋がらないと分かりきった上で、だけど自然と、指は正しくボタンを打ち込んだ事に自分自身驚く。聞き慣れない呼び出し音が鳴って、心臓が高鳴る。
「はい、もしもし」
あの、と呟くだけの声すら掠れる。この程度で、電話機を持つ手はふるえた。
「あの、すみません。そちら、莫原さんのお宅でしょうか」
「いいえ、うちは瀬戸内といいますよ。間違い電話じゃないでしょうか」
全く知らない、優しそうな口調のおばさんの声が、耳の奥でがんがん鳴り響く。
一緒にじゃらりとチェーンの音がするのは、今つけているシルバーのイヤリング。
そうですか、と、最後まで言い切れたかわからない。か細く間違い電話の謝罪をし、電話を切る。
暫く経って落ち着いてくると、訳もなく笑いがこみあげる。繋がらないどころか、全然違う家の番号になっていたのだから。
「ふふ」
寒さには慣れていても暑さは逆。蒸し暑さに耐えかねて、窓を開ける。涼しい夜風は心地よかった。
さっきまでの私は、一体何を期待していたんだろう。一度決めたことを、どうして今更。
ああ、くだらない、どうしようもない人生だ。
もう一度、少ない電話帳を眺める。この中にあなたの番号はない。だってあの頃はいつも一緒で、電話なんて要らなかったから。耳に触れると、さっきの電話の相手の声は、もう思い出せなくなっていた。きっと向こうもそうだろう。
だけどあなたは違う、そんな訳がない。私だって覚えている、この耳が、目が、口が、鼻が、手足が、脳が、全部。
気分が悪くなる前に、リモコンの再生ボタンを押して、無理やり夕食の続きを始める。考えるのはやめて、もう一度ストーリーの前半を頭から引きずり出して、続きを叩き込む。
ー今日もまた、あなたを、こいねがいー
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