目を開けた時には、まだ朝はやって来ていなかった。
それでも、うっすらと天井や窓、置いてある物の輪郭が分かるようになるまで、
そう時間は掛からない。昔から、慣れているから。
夢から目が覚めたが、朝がやって来ていないから、もう一度眠らなくてはいけない。
上半身だけをベッドから起こし、改めて周囲を見渡す。
壁一面にずらりと並んだ引き出しや棚、勉強机で光る風鈴、強度を重視した棚に並ぶランプ。夜の光だけで分かる物を、ひとつずつ、ひとつずつ確認する。
どれだけ集めても、「自分自身が残せるもの」が、何もない。
それに気付いたのがいつ頃だったのかは、よくわからない。
つい最近だったような、そうでないような、不思議な気持ちだけが浮いている。
とても昔、「人間は考える葦である」だと言う人が居たらしい。
よくわからないが、同時に考えることは良いことだとも教わった、だから考える。
けれど、頭があまり良くないせいか、納得出来る答えが出てこない。
その上で、なんとか頑張って出した思いは、やはり答えとは呼べそうにない。
せめて、集めたそれを与えてくれる者の役に立つくらいは。
与えられた物を、手に入れた物を、自分の手で壊さないことくらいは、出来るように。
再び眠りにつく前に、さっきの記憶を思い出す。
夕闇に降る雨に冷たさは感じない。
2月と同じ、顔の見えない笑みだけが、ほんの少し残った夢のかけらとして、記憶に残った。おいでおいでと手招きする姿は、どこかで見覚えがあったけれど、行ってはいけないのだと記憶が言う。
もう一度目を閉じる時、部屋の窓を少し開けていたせいか、雨の降る前の匂いがした。
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