「城さん、お入り下さい」
看護士さんに呼ばれて、待合室から目的の部屋へと移動する。
毎回毎回うっかりうたた寝しそうになるのは、あまりに静かだからなのか。
優しいクリーム色で統一された室内のソファーに座る。
なんとなく視線を移すと、壁一面に置かれた様々な人形やフィギュアが目につく。
そのすぐ手前におかれた机の上には、小さな砂場。
なんだっけ、確かあの砂場に自由に人形やらを置くことで、その人の精神状態が分かるとかいう奴だ。ネットニュースの記事で見た覚えがある。
「調子はどう?」
「あーはい、いつも通り。まぁまぁ」
来年にはついに高校生になる訳で、心配する両親の説得についに折れて、いやいや通っているクリニック。目の前でやんわりとした笑みを浮かべた先生は、いつも通り軽いノリで話しかけてきた。
「その答えだと、夢を見る頻度も大して変わってないのねぇ」
「まぁ、そっすねー」
燃え盛る自分の家の中で熱い熱いと泣き叫んでは、そのあと姉に似た声に呼ばれ水底に引きずり込まれ、どんどん呼吸も苦しくなって、そうやって意識が落ちてから携帯のアラームに起こされる。そんな、ありきたりなトラウマの話。
「あ、でも最近新しいパターン増えたわ」
「へぇ、どんな?」
「水の中引っ張られるのが砂の中バージョン。蟻地獄的な」
「なんか水より息詰まりそうね?」
ここら辺、さらっと返ってくる相槌が落ち着く。きっと相手によって反応を変えたりするんだろーな、心理学とか精神科医って大変だな、とかぼんやり頭の隅で考える。
「うーん、でも砂に埋もれて気絶ってのは良くないと思うけど。やっぱり一回診察受けない?」
普段の睡眠時間が平均より短い理由が、ネット中毒である以外にも存在することはわかっている。ただし、こざっぱりしたベリーショートの彼女はカウンセリングのみであって、オレに睡眠薬は処方しない。
「嫌ですよ、オレまともに寝れてるし」
最初から答えがわかっていたように、先生はあらそう、と笑う。
気を許せば許すほど、嫌なことはぺらぺら話したくない性分だ。そこら辺も既にバレてるんだろう、たった数回しか会っていないこの人には不思議と世間話のように話せる。
「そういえば、進学どこだっけ」
「武蔵坂です、小中高一貫」
「ああ、あそこか。不思議とテレビCMとか広告は見ないのに、そこらの大学よりやたらキャンパス数多いよねぇ」
「大学部もあるらしーよ。いやーキャンパス多い上に教室も多いからさ、転校して一年過ぎたのにいまだに迷うよ?」
そんなんで高校も大丈夫なの?と軽く笑われ、つられてこっちも「どうだろ」と笑い返す。
そもそも、学園の保険医や学生支援のカウンセラーに頼まなかったのは、灼滅者とかいう超展開を深く理解している大人に話すと、親身すぎる奥深い相談になりそうなのが嫌だったからで。
…自衛の為に来ただけのオレには、荷が重い会話を続ける羽目になるのは避けたかった。
ただ、「姉に似たナニカがいつも傍に居て胸糞悪いです」とは言えないのが、唯一にして最大の難点だけど。そんなの一発で幻覚幻聴扱いになる、バベルの鎖とかいう超展開が助けてくれるだろうけど。
「まぁ、話聞いてる限り、それきちんと眠れてるって自分で思ってるだけよ?夜中のネットサーフィンは0時までにしなさいな」
「えーそれじゃあ友達とネトゲで合流出来ないんですけど」
「診察受けたくないなら布団に入る時間もうちょっと早めにしないとー」
無理強いはしないけどね、と付け足して、他には何か面白いことあった?なんてどうでもいい話を30分。時間の無駄な気がしてならないけれど、先生が美人で軽いノリだから我慢も出来る。
それじゃあまた次回、と先生に手を振って、部屋をあとにする。
支払いを終えて、知り合いには見られたくないなぁと思いながらクリニックをあとにする。
…ついでだ、ブレイズゲートに寄ろう。此処からなら救済タワーまで電車で行ける。
戦闘中は「姉に似たナニカ」と一緒なのに、どうしてオレはガトリングちゃんをぶっ放しに行くんだろーか。
…ストレス発散のつもりが、結局自分でただ悪化させてるだけじゃねぇかと、ちょっと笑えた。
携帯を取り出し、電話を掛ける。
「あ、もしもしー漣香ですよっと。今ヒマ?救済タワーで防具拾いに行きたいんだけど、ついてきてくんね?…いや女物じゃねえし」
タイムリミットは夜7時。今日は父さんの帰りも早い、さっさと銃弾をばらまいて帰ろう。「今日もばっちり話を聞いてもらって、心が楽になったよ」なんて顔をする為に。
看護士さんに呼ばれて、待合室から目的の部屋へと移動する。
毎回毎回うっかりうたた寝しそうになるのは、あまりに静かだからなのか。
優しいクリーム色で統一された室内のソファーに座る。
なんとなく視線を移すと、壁一面に置かれた様々な人形やフィギュアが目につく。
そのすぐ手前におかれた机の上には、小さな砂場。
なんだっけ、確かあの砂場に自由に人形やらを置くことで、その人の精神状態が分かるとかいう奴だ。ネットニュースの記事で見た覚えがある。
「調子はどう?」
「あーはい、いつも通り。まぁまぁ」
来年にはついに高校生になる訳で、心配する両親の説得についに折れて、いやいや通っているクリニック。目の前でやんわりとした笑みを浮かべた先生は、いつも通り軽いノリで話しかけてきた。
「その答えだと、夢を見る頻度も大して変わってないのねぇ」
「まぁ、そっすねー」
燃え盛る自分の家の中で熱い熱いと泣き叫んでは、そのあと姉に似た声に呼ばれ水底に引きずり込まれ、どんどん呼吸も苦しくなって、そうやって意識が落ちてから携帯のアラームに起こされる。そんな、ありきたりなトラウマの話。
「あ、でも最近新しいパターン増えたわ」
「へぇ、どんな?」
「水の中引っ張られるのが砂の中バージョン。蟻地獄的な」
「なんか水より息詰まりそうね?」
ここら辺、さらっと返ってくる相槌が落ち着く。きっと相手によって反応を変えたりするんだろーな、心理学とか精神科医って大変だな、とかぼんやり頭の隅で考える。
「うーん、でも砂に埋もれて気絶ってのは良くないと思うけど。やっぱり一回診察受けない?」
普段の睡眠時間が平均より短い理由が、ネット中毒である以外にも存在することはわかっている。ただし、こざっぱりしたベリーショートの彼女はカウンセリングのみであって、オレに睡眠薬は処方しない。
「嫌ですよ、オレまともに寝れてるし」
最初から答えがわかっていたように、先生はあらそう、と笑う。
気を許せば許すほど、嫌なことはぺらぺら話したくない性分だ。そこら辺も既にバレてるんだろう、たった数回しか会っていないこの人には不思議と世間話のように話せる。
「そういえば、進学どこだっけ」
「武蔵坂です、小中高一貫」
「ああ、あそこか。不思議とテレビCMとか広告は見ないのに、そこらの大学よりやたらキャンパス数多いよねぇ」
「大学部もあるらしーよ。いやーキャンパス多い上に教室も多いからさ、転校して一年過ぎたのにいまだに迷うよ?」
そんなんで高校も大丈夫なの?と軽く笑われ、つられてこっちも「どうだろ」と笑い返す。
そもそも、学園の保険医や学生支援のカウンセラーに頼まなかったのは、灼滅者とかいう超展開を深く理解している大人に話すと、親身すぎる奥深い相談になりそうなのが嫌だったからで。
…自衛の為に来ただけのオレには、荷が重い会話を続ける羽目になるのは避けたかった。
ただ、「姉に似たナニカがいつも傍に居て胸糞悪いです」とは言えないのが、唯一にして最大の難点だけど。そんなの一発で幻覚幻聴扱いになる、バベルの鎖とかいう超展開が助けてくれるだろうけど。
「まぁ、話聞いてる限り、それきちんと眠れてるって自分で思ってるだけよ?夜中のネットサーフィンは0時までにしなさいな」
「えーそれじゃあ友達とネトゲで合流出来ないんですけど」
「診察受けたくないなら布団に入る時間もうちょっと早めにしないとー」
無理強いはしないけどね、と付け足して、他には何か面白いことあった?なんてどうでもいい話を30分。時間の無駄な気がしてならないけれど、先生が美人で軽いノリだから我慢も出来る。
それじゃあまた次回、と先生に手を振って、部屋をあとにする。
支払いを終えて、知り合いには見られたくないなぁと思いながらクリニックをあとにする。
…ついでだ、ブレイズゲートに寄ろう。此処からなら救済タワーまで電車で行ける。
戦闘中は「姉に似たナニカ」と一緒なのに、どうしてオレはガトリングちゃんをぶっ放しに行くんだろーか。
…ストレス発散のつもりが、結局自分でただ悪化させてるだけじゃねぇかと、ちょっと笑えた。
携帯を取り出し、電話を掛ける。
「あ、もしもしー漣香ですよっと。今ヒマ?救済タワーで防具拾いに行きたいんだけど、ついてきてくんね?…いや女物じゃねえし」
タイムリミットは夜7時。今日は父さんの帰りも早い、さっさと銃弾をばらまいて帰ろう。「今日もばっちり話を聞いてもらって、心が楽になったよ」なんて顔をする為に。
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