きっかけなんて些細なもんだ、ストレス発散とダークネス封じのブレイズゲートの途中。自分のクラブの留守番を頼んでいる用心棒と同じ。つうか同じ学校の制服を着ている生徒が逆に目立つなんて、改めてどうかしてるとは思う。
どうせなら一緒に行こうぜなんて、酷く雑なナンパみたいだった。
とは言えもっと酷いのは、いきなり「羨ましいです」なんて言った向こうだ。どういう先制攻撃よ。
そんな事を思い出しながら緋鳴館へと足を運ぶと、
「あ…貴方ですか」
「呼んどいてそれはないんじゃねえの…」
「あ、ご、ごめんなさい、えと、」
彼女は少しどもったあとに視線を逸らして、誰でも良いからお暇な人を呼んでみたら、漣香君が来てくれたから、と頭を下げた。
普段はこんな感じで大人しく控えめで、視線もろくに合わせてこないような子で、多少変な事は言うものの、基本的には全く無害な内容で、なんというか正直、これで黒髪ロングだったらパーフェクトだとは思っている。
だが問題は、初めて会った時の印象は、なかなか拭えないという話。
学園の図書室で時々見かける姿と、ブレイズゲートでコールドファイアをぶちまける姿が一致しないのだ。
初対面の先制攻撃は恐ろしい程によく効いた。
効いてしまった自分に腹が立つ程度には。
「その方、お強いですね」
さっきのトラウマばらまきなんて清々しかったですよ、なんて、コード解除する前とは違う髪と目の色、そして大違いの表情で笑いながら。
「…あっそ」
「ご親族の方ですか?」
こいつは、いきなり、なにを言い出すんだ。
「とてもよく似てらっしゃると、思って」
蜂蜜を溶かしたような明るいミルクティーのウェーブヘア、こっちは素っ気ない茶髪の外ハネ。姉ちゃんはココア色で可愛いと、男にしてみれば褒め言葉とは思えない感想を述べてばかりだった。
「…別に似てないし、そういうんじゃないよ」
そうですか、と一言おいたのちに続く言葉は、何度も見て聞いてきた筈の言葉なのに、やけに不愉快に感じた。オレと『あの女』の間にはそんな絆、周囲と違って皆無だから。
「けど…良いですね、サーヴァント使いの方って。いつも、一緒に居られて」
私は、置いていかれたんです。
だからほら、と、鞄からおもむろに出したゼリー飲料。
「この中に、定期接種用の薬物が入ってます」
「あー…じゃあ君って」
「はい、人造灼滅者です。所謂、『出来損ない以下』ですね」
その答えと笑みで、気付いてしまった。彼女は、望んでそうなって、望んで此処に来た。
彼女の言う『出来損ない』になりたくもないのになってしまったオレは、やけに古びた魔導書をめくる仕草や、コード解除してから妙に饒舌になった口元の笑みから、どうしようもなく冷ややかな恐怖を感じて、その度に、ほんの少し震える腕でガトリングを抱きかかえていた。
「えと、あの、漣香君」
戦闘中はあまり聞かない、普段の小さな声で我に返る。なんでか、つい心の底からどうでもいい事を思い出してしまったが、ぼんやりするのはオレじゃなくサッさんの役目じゃないか。
「…あ、うん、ごめん。なに?」
「そろそろ、帰ろうかなって思っとれんけど…」
「あーおっけおっけ」
何処の方言って言ってたっけ、確か石川県だとかだったはず。そうだ前田利家だ、ゲームのキャラで槍ぶん回してる姿しか分かんないけど。いや、慶次のほうだっけか?そういえば彼女も妖の槍を時々使ってるから、多分当たりだ。
「ちゃんと迷わず帰りなよー」
「だ、大丈夫です。慣れましたから」
館から出た彼女の見た目は、学園で見る白髪に戻っていたし、喋り方や言動も、こっちが見ていて心配になる位には不安そうな姿だった。
「じゃあいいけども。そんじゃ、またね」
「あ…はい、ありがとうございました」
このガッコには色んな事情があって色んな人間が入学してくる。だから余計な事には立ち入らないのが一番良い。それがお互いの為になるのだと、信じて。いや、もしくはあえて踏み込むことで、分かり合えたり乗り越える事が出来る人も多いんだろうけど、オレは、恐らく彼女も、そんなポジティブさは持ち合わせていない事もすぐ視えた。
だから多分、オレと彼女は、お互いを嫌いにはならないが、一生好きにはなれない。
PR
COMMENT
カレンダー
最新記事
(07/23)
(07/17)
(06/02)
(05/21)
(05/21)
ブログ内検索
最古記事
(02/04)
(03/28)
(04/07)
(04/07)
(04/07)