盆には必ず父方の実家に帰省し、そしてどういうわけだか必ず風邪を引く。ぶっちゃけ姉ちゃんが死んだのも夏だったから不謹慎にも「タイミングいいな」とか思った時もある。そんなわけで、オレはろくに墓参りに行ったこともない。すまんご先祖様、でも仏壇には頭下げてるから許してほしい。
今年の夏はまあ酷暑で、それは東京を脱出しても変わらなかった。
あげくひどい熱を出して、それなら行かなきゃいいのにと自分でも思う。
ただ行かないと、母方の実家と違い遠い地方にある父方の祖父母や、親戚が寂しがるのが嫌なだけだった。小遣いもくれるし。
クーラーの付いた部屋は、遠い海辺の喧騒を封じ込める。
同時に、流石にこの距離からじゃ、潮風の匂いもしてこない。叔父や従兄達は、今頃祭りで男らしさを見せつけているんだろう。その姿を、姉ちゃんや両親、親戚と一緒に見るのが好きだった。
眼鏡を掛けていないからか、頭がふらついてるままだからか、ぼんやりとした視界で、遠くで赤々と燃える光景を大きな窓から眺める。
いつからあの光景を、近くから見るのが怖くなったんだっけ。
あの光景を作る物質と同じモノが、自分の体内に流れてる事を知ったからだっけ。意識しなければ問題ないと分かっていても、もしもあの場で怪我でもして、擦りむいた膝から火が出たらなんて考えたら、ぞっとするからか。
それとも、オレの中でギャアギャアと鳴き喚くアイツが、あの炎に合わせて騒ぎ出すからだっけ。
そんなに鳴いて何がしたいんだ、もっと静かに出来ないのか。確かにテンションの上がる祭りではあるが、お前が暴れると皆が迷惑するんだぞ。神輿を燃やして壊していいのは、お前じゃない。それに、オレでもない。
「…破壊衝動ってめんどくせぇなぁ」
何度も呟いた独り言で、気分の悪さを飲み込む。そうだ、こんな吐き気を感じてるのはオレだけじゃない。学校には同じかそれ以上の悩みを抱えた奴らがわんさか居る、というかそういう奴しか居ない。だけど今は、一人可哀想な自分に浸ってもいいんじゃなかろーか、とか考える自分に対して、ああ、やっぱり気分が悪い。胸元の、いつまで経っても治らない火傷を掻き毟りたい。折角の海なのに、折角の祭りなのに。
あれは送り火なのに。還っていく人を、来年までしっかり見送る為の。
海はすきだ、こんな身体になってからは、鼻が妙に敏感になって、前より潮の匂いを強く感じるようになったけど。父さんがつけてくれたキラキラネームの漢字も、姉ちゃんとお揃いの「さんずいへん」が入っているから。
泳げる時期は過ぎたものの、明日の朝になったら散歩には行けるかな、とか考えて、まだまだ続く祭りの火を眺める。
あの祭りを、また両親や親戚と一緒に見られる日は来るんだろうか。少なくとも、姉ちゃんと一緒に見られる日は永遠に来ない。ましてや、鞄に投げ込んであるカードに封じた「あんな奴」とは、こっちから願い下げだ。
そんな風にぐつぐつ続く気分の悪さと火傷の痒みを上書きするみたいに、ゆっくりと眠気が襲う。どこかで酷く悲しい鳴き声が響いた気がしたのは、気のせいとして忘れよう。
次こそは朝まで目を閉じようと覚悟したところで、枕とタオルケットに染み込んだ汗でもなく、ましてや自分の涙でもない、潮の匂いを感じた。
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